山崎豊子が愛したホテルに行ってきた
「陽が傾き、潮が満ちはじめると、志摩半島の英虞湾に華麗な黄昏(たそがれ)が訪れる」。
この一文から始まる山崎豊子の作品、
「華麗なる一族」
この不朽の名作は志摩観光ホテルで生み出されたという。
(山崎豊子が実際に執筆に使った机)
この荘厳な佇まい
この穏やかな空間にいると私のような愚かな人間ですら創作意欲が湧いてくる。
ホテルが先か、作品が先か。
自身の作品が映画やドラマとして映像化され大ヒットした小説家山崎豊子。社会派小説とも呼ばれるその作風は実在の人物や団体をモデルとしているため多くの議論を呼んだ。注目すべきは元新聞記者の肩書きに相応しいその圧倒的な取材力にある。「不毛地帯」では取材人数は5300名。名刺交換は4000枚。取材ノートは980冊。実際に当事者として見てきたんじゃないのか?と疑いたくなる程、緻密で迫力に溢れている。その取材力は情報管理の厳しい中国でも変わらず「大地の子」を書いた際は実際に三年間中国に滞在し胡耀邦党総書記(当時の総書記)に面会までこぎつけている。しかも胡総書記に「中国を美しく書かなくてもいい。真実なら欠点を書いてもかまわない。それが本当の中日間の理解につながる」と言わせたというからすごい。
本は良い。本は作者の体験を簡単に疑似体験できる。山崎豊子の作品を読めば、社会のあらゆることが見えてくる。
1 華麗なる一族
キムタク主演でドラマ化され話題になった万表財閥を巡る一族の愛憎劇。銀行の合併や政治家の権益など、数々の人物の思惑が錯綜し、複雑ながら人間味のある大作である。
ここで題材となったのは日本中を揺るがし戦後最大の倒産といわれた山陽特殊製鋼事件(昭和40年)と、神戸銀行・岡崎一族である。
着想は山崎氏が伊勢志摩サミットの舞台にもなった志摩観光ホテル(三重県)で目にした華やかな企業オーナー一族が出発点であると言われている。また、夫人と同格の席に座る愛人の姿が目に付き、愛人を別宅に囲うよりも背徳感を強く覚え採用した。
万俵財閥のモデルである神戸の地方財閥、岡崎財閥は実際に正月は志摩のホテルで過ごし、須磨の海を一望できる場所(須磨離宮公園)に住んでいたようだ。(阪神淡路大震災で屋敷は倒壊)
万俵財閥のトップ、万俵大介のモデルは岡崎忠。 神戸の財閥、あるいは、神戸銀行、同和火災海上保険等に 君臨する一族のトップとして、関西一円にその名が轟いていた。
大同銀行のモデルは太陽銀行
日本の金融再編、メガバンク創りを巡り、阪神銀行の頭取だった万俵大介は生き残りを図るため格上の大同銀行相手に「小が大を飲み込む合併」を画策する。見事成功し、できたのが阪神・大同銀行(東洋銀行)。モデルは太陽神戸銀行。
その後、現実では太陽神戸銀行は三井銀行と合併しさくら銀行、さらにさくら銀行は住友銀行と合併し三井住友銀行へとなっていく。後世の人間だから言えることだが、最終的に住友の全勝ちなのを知っていると滑稽で面白い。
小説の最後でも、苦心の末できた東洋銀行は富国銀行に吸収されてしまうことが示唆されていた。全ての地方銀行が、所詮はメガバンク創りのために政界の手の平で転がされていたコマの様なモノでしかなかったということか。
富国銀行のモデルは富士銀行
そしてこの作品の主人公である大介の息子である万俵鉄平が経営者を務める阪神特殊鉄鋼。モデルは山陽特殊製鋼。
実際は山陽特殊鉄鋼は神戸銀行が大株主でメインバンクではあったが、直接、血の繋がりは岡崎家との繋がりはなかった。
山陽特殊製鋼倒産事件を題材にしている
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/山陽特殊製鋼倒産事件
帝国製鉄のモデルは富士製鉄(現新日本製鉄住金)
この小説でよく出てくる言葉である閨閥。
閨閥によって華麗なる一族を形成してきた万俵財閥。モデルである岡崎財閥もすごい。
物語の阪神銀行のモデル神戸銀行の頭取は岡崎家の婿養子岡崎忠というひと。
余談だが岡崎忠の長男は、現在の子供服ファミリアの代表取締役。
ファミリアは坂野(ばんの)家の会社で、その娘と岡崎家の長男晴彦氏が婚姻して晴彦氏が現社長。
そしてファミリア創業者坂野淳子さんはレナウンの創業者の三女。
岡崎忠の嫁方は河合家で小松製作所を経営。
他方、同和火災海上を受けついだ岡崎真一さんの奥さんは、西本願寺宗主の四男の娘。
西本願寺大谷家と婚姻関係にあるのは衆議院議員の小坂憲次さん。
岡崎真一さんの息子は三人いて、東京衡機(こうき)製造所、内外ゴム、ニッセイ同和損害保険
の経営を行っている。
なんやこの家系・・・笑
この小説を読むと、メガバンク再編や旧大蔵官僚の裏側を少し見ることができる。おすすめです。
ちなみに志摩観光ホテルのパウンドケーキはとても美味しく人気だそうです。