レザーを着て死ね

夏でもレザー着てる人のブログ hustle & hustling

天王寺デンジャラス

初デートといえば、やれ甘酸っぱいだとか、やれ切ないだとか、青春の良き思い出のように語られることが多いが私は違う。
初デートは今から10年程前の高校1年生の時、舞台は「大阪の下町」、北にもミナミにもない大阪のレトロな香りを残す街「天王寺」。午前中は天王寺のショッピングモールでぶらぶら買い物をし、午後は動物園に行くという王道のデートコース。それでも動物好きの彼女の気を少しでも引こうと精一杯考えたデートプランだった。前日はホットドックプレスの「HOW TO 手の繋ぎ方講座」を蛍光ペンを駆使して読み込んで眠れず、当日も口臭をぬかりなく何度もチェックし,あげく嫌がる母や姉を追いかけまわし息をチェックさせた。

ショッピング中、終始二人の会話は弾み、私の浅薄な計画通りにデートは進む。手をつなぐ以上の成果も期待出来そうな雰囲気。歩き疲れた私たちはとりあえず近くの噴水の前で休憩をとることにした。が、それが全ての間違いだった。座るまで全く気づかなかったが、隣にふっと目をやると女性物のパンティーを頭からかぶったおじさんがいる。作り手の意向を完全に無視し、足をだすべきところから目をだしてこっちを見ている。彼女もおじさんを見て青ざめ黙りこむ。危険を感じすぐにその場から離れようとするも、「お兄さん、カップルですか?いいですねー」と話しかけられた。昔からこういう輩にはよく絡まれる、ついてない。勝手に私たちに親近感を抱いたオジサンは、「君たちおじさんのこと変態だと思ってるでしょ?おじさんにはわかるんだよ。人生経験豊富だから」と当たり前のことを自信満々に言い放ち、聞いてもいないのに、「出会い系で知り合った女子高生に待ち合わせ場所にパンティーをかぶって来てくれたら会うって言われたんだよ」と、凡人には理解しがたいパンティーをかぶる理由を言い訳がましく説明しだした。「パンティーをかぶってきて欲しいって言われたんですか?」と聞きなおすと、オジサンは「そう、パ、パ…パンティーをかぶれたら会うって」と、かぶってるくせに「パンティー」という単語を使うのはやたらとためらった。
内心心細かったであろうパンティーオジサンは私の反応に気を良くし、身の上話を堰を切ったように話だす。若い頃は身長が低くジャニーズ系の顔立ちで女の子からよくもてたという。が、非常に奥手な性格でうまく女性と接することが出来なかったので今になって反動がきていると。タコメーターの振り切りかたよ。それに自身のことを遠まわしに可愛いと一定の評価を下すおじさんの顔は平坦な顔で、自称チャームポイントの目はただギョロギョロしているだけの濁った大人の目だ。性に開放的な母から産まれた私は若干母とオジサンをだぶらせ「お子さんに申し訳ないと思わないんですか?」と言ってやり、何故こんなことをするのか?と少し不快感を露わにした。すると、一瞬腕を組んで考えた後、ムシャクシャしてやった!みたいな非行少年のような弁明をしたのがとても面白かった。
彼女は何度も動物園へ行こう!と小声で言ってくるが、もはや私の心は動物よりもおじさんの生態に惹かれてしまい彼女の視線を一切無視し一緒に女子高生を待つことにした。

約束の3時になったが、女子高生は現れない。辺りを見回してみるとブスなビルに身を隠し、男女の高校生グループがこっちを見て大笑いしているのが見えた。それを見て全て事態をのみ込んだ。なるほど、案の定おじさんはだまされている。けれど、おじさんには全く同情出来ないし懲らしめる意味も込めてもう少し泳がすことにした。定刻を過ぎても当然女子高生は現れず、おじさんは落ち着かない様子で何度も携帯をチェックし、「おかしいなぁ、気づいてないのかなー」とぶつぶつ呟くので、さすがの大阪の天王寺でも噴水の前でパンツをかぶってる人はあなただけですよ、と教えてあげた。一向に姿を見せない架空の女子高生にイライラしだしたオジサンはあろうことか私の彼女に対して「君とちゃうー?」とあらぬ疑いをかけてきたり、噴水の段の上によじ登ってパンティーをこれ見よがしに通行人に向かって掲げたり、しまいには交通事故にあったのかもしれないと架空の女子高生を憂いて涙を流し、パンティーをハンカチーフのように使いだす。他人の為に涙するおじさんを見て純白のパンティがおじさんの心の純粋さとダブって見えたが、「最近のラブホテルって二時間5000円ぐらい?」と聞かれたのですぐに考えを改めた。そして定刻から1時間経過しても現れないことに痺れを切らしたおじさんは「ちょっと目印が分かりにくいのかもしれない」と、全く客観的に物事を見れてないことがよくわかる発言をして、1パック3枚セットで購入したという残りのパンティーをマイカーのポールにひっかけてくると言い残し、車のもとへと走っていった。数分後、走って戻ってきたおじさんはぜぇぜぇと息を切らしていたが、意地でもパンツを脱ごうとせずパンツの布の繊維の隙間から苦しそうに「きた?」と聞いてきたので、さすがに憐れに思った。私が「実は‥」と話し出すと、おじさんは突然そうだ!と閃いたような顔をして、膝をつき車と噴水の位置を指や手を駆使して測り、丁度車と噴水の中間に位置する天下の往来に最後のパンツをぱさっと置いたので、「なんのつもりですか?」と聞くと、パンツを辿らせて女子高生をおびき寄せるという下品なトラップの説明するので、こいつには何を言っても無駄だと思ってさよならした。別れ際に「パンツのおじさんを探してる女子高生がいたら、噴水の前にいるいうといてー」と大声で言われたので振り返らずに走って逃げた。天王寺は怖い街だ。
ちなみに動物園は通天閣近くのおばさん達のどぎついアニマルプリントを見たおかげでほぼ満足し、発情した象の交尾を見せられ気まずくなって帰宅した。もちろん彼女には後日すぐに振られた。

最低の結末だったが、私は誰よりも思い出に残る初デートをしたと思っている。合掌