レクサスのおもてなし
今から10年以上前のことだ。私の通っていた高校の近くに、黒を基調としたやたらとラグジュアリーな雰囲気を醸し出す建造物ができた。看板にはLEXUSと書いてあった。
「なぁ、お前見た?」
「なにが?」
「○○号線の側道にやたらオシャレな建物できてんで」
「あ?あぁ・・あのLってやつ?」
「富裕層向けロッテリアちゃう?」
「そんなんあるかよ。肉ぶ厚そうやけども。なんかLEXUSって書いてたで」
そんな会話をしていると、盗み聞きしていたのかクラス1の機械オタク松沢が口を挟んできた
「ロッテリアじゃねーよwww あれはレクサスっつートヨタの高級ブランドよ」
「元々北米でトヨタが立ち上げたブランドで逆輸入みたいなもんやで。俺いつか乗りたいねん」
そういえば近所のヤンキーが左ハンドルのLマークに乗っていたことをふと思い出した。
「そーなんや!俺らもそろそろ免許取りに行くし、帰り行こや」
「いや、だから富裕層向けなんやて。制服で免許もないチャリできた奴なんか入れてもらえへんで」
「まぁーえーやん。一回ディーラー行ってみたかったし!レクサスも見みてみたいし!」
そんなこんなで学生服姿の三人は自転車を走らせディーラーに向かう。
建物に入り、辺りを見渡すとそこは異次元だった。宝石のような光沢を放つ車達が俺は偉いんだぞ!と言わんばかりに並んでいる。店内には上品そうな紳士、やり手な雰囲気の若い男、幸せそうな家族連れなどが営業マンと和かに談笑している。
「どいつもこいつも金持ってそうやな」
「これどうしたらいいん?ここ座っていいん?」
「いや、あかんやろ。誰も話しかけてくれへんし。車ぐるっと見てまわって帰ろや居心地悪いわ」
「せやな」
ここには自分達の居場所がないことを敏感に察知した私たちが、ディーラーを後にしようとすると
「いらっしゃいませ!こんにちわ!」
後ろから明るい声が聞こえた
振り返るとそこには背広を着た長身のいい男が立っていた。
うお!カッケー!すげー!大人の男きた!
セクシー!背たけー!彫り深けー!
さしずめ羽賀研二!
黒い!足長い!笑顔素敵!黒い!シュッとしてる!えくぼが可愛い!黒い!眉毛が凛々しい!黒い!歯は白い!黒い!
黒い
羽賀研二のかっこよさと黒さに圧倒されていると
羽賀はこう言ってきた
「○○高校の方ですよね。お車に興味あるんですか?」
「はい!僕らもうすぐ免許取りに行くんですけど、どんな車がいいかなって話してて・・」
「なるほど!良いですね!レクサスはいい車なので是非見ていってください!興味のある車種とかありますか?」
「いや、全然分からなくて。なんの前知識も無くきちゃいまして」
「そうなんですか!じゃあ今日はゆっくり見てください。あそこに置いてあるのはISと言ってー」
おぉ・・・羽賀めっちゃえーやつやんけ。こっち財布に80円しか入ってへんぞ。金どころか免許すらあらへんのにめっちゃ親切やし、嫌な顔一つせーへんやん。人間出来てるわ。いや、ちゃうね社員教育ができてるんやろね。もうね、さすが日本が誇るトヨタですわ。どんだけ外車の技術が上がろうが小手先で我らが大和民族には勝てるものではないね。辰兄ももう許したってくれ。アンナもやり直したれ。
「あー、カッコイイですよねホンマ。値段もやっぱ高いですね」
「高級ブランドの位置付けなので、どーしても値段もカッコよくなっちゃうんですよねw」
「すみません今日は、お金もないのに色々教えてもらって。忙しいのに申し訳ないです」
それを聞いた羽賀は真顔になって言った
「未来のお客様ですから」
おもてなし
オ・モ・テ・ナ・シ
O・M・O・T・E・N・A・S・H・I
K・E・N・J・I ・H・A・G・A
こちらが感動に打ち震えていることを察っし、リラックスしてくれと言わんばかりに麻雀牌みたいな歯を見せて笑う。
ロンですわ。凄いわレクサス。さすが日本最強の企業トヨタ。滝川クリステルもういい。交代!羽賀で!
これがどれだけのことか、大人になった今考えたら分かる。店が客に敬意を払うように、客側もある程度は店側に敬意を持たなければいけない。高級店で学生服、無一文は明らかに敬意を欠いていたかと思う。
でもレクサスはそんな私を一生懸命もてなしてくれた。感動を与えてくれた。
お兄さん
あの時「未来のお客様ですから」と優しい言葉をかけてくれた営業のお兄さん
僕は数年後、大人になりました。
ジープでグランドチェロキーこうた
かっけー!!この角度たまらんわ!
早ければ再来週納車とのこと。楽しみだ。
そういえば、最近ニュースでやってたけど詐欺で服役中の羽賀研二受刑者に4億円の返還命令が下ったんやて。
では