レザーを着て死ね

夏でもレザー着てる人のブログ hustle & hustling

メイド喫茶で嫌われる客

10年前、スーツを着て働きたくない!満員電車に揺られて通勤したくない!髪切りたくない!つうか働きたくない!とモラトリアム全開だった私。それでも、家族の圧からどっかには就職しなきゃ!という焦りからエドウィンを受けることにした。理由はスーツ着なくていい!それだけ。なぜか持ち前の適当な弁舌がエドウィンの試験管の目にとまりトントン拍子で最終面接へ。何も聞かれてないのに唐突に「DJやってます!」って言ったのが良かったのだろうか。食いつき悪いから「最後に何か言っておきたいことはありますか?」の質問でも「ひゃい!DJやってますよ!」って言ったった。

そんな面接を終え、せっかくだし東京を観光して帰ろうかなと考えていると。面接で隣に座っていたテッチャンと名乗る男に話しかけられた。「DJのくだりいる?」って。テッチャンはオンザエッジ時代のホリエモンみたいな髪型で同郷ということもありすぐに意気投合した。聞き慣れた関西弁とその髪型で色んな意味で懐かしい気持ちにさせる男だ。せっかくなので二人で観光をしようということになった。
とりあえず、目的地と経路を決める。自然と東京暦1年のてっちゃんが主導権を握る。お台場→浅草→秋葉原→原宿のコースがまわりやすいとのことだが、全否定してMッ気ある自分は「ツンデレ喫茶に行きたい。」と欲望を剥き出しにした希望を伝える。それを聞いたてっちゃんは嫌そうな顔をして、思い出す様に自分のツンデレ喫茶経験を語り始めた。1年ぐらい前に秋葉のツンデレ喫茶に行ったことがあるという。その店は、ツンの時間が「長く」、「しつこく」、「重い」と三拍子揃い、内容は容姿のことから始まり、ありとあらゆることを執拗なまでにディスられるとのこと。就活の話しをすればエコノミックアニマル呼ばわりされ、最終的に矛先は親兄弟にまで向けられ、「血が駄目」と言われたことは一生忘れないと話す。そんなツンを耐え忍び、待ちに待った見返りのデレは「公家顔だよね」とか、「禿げない髪質だよね」とか、かなりいい加減な内容とのこと。「あれはオタクを見下した殿様商売」と、とてもご立腹されてらっしゃるので、即決でそこに決めた。

場所は秋葉原のメインストリートからは程遠い知る人ぞ知るといった佇まいの雑居ビル2階。店内は薄暗く、10畳ほどの室内にはメッキ素材のオブジェが所狭しと並んでいて、暗くすると光る蛍光の星のシールが壁一面に貼ってある独特な雰囲気。初めて見たメイド喫茶の店内は、期待を大きく裏切りただ単純に安っぽいなと思ってしまった。
よくよく調べてみると、メイド喫茶はブームを迎えたことで飽和状態になり、競争に破れた店はどんどん潰れているのだという。この店はツンデレ喫茶やメイド喫茶などの変還を繰り返し、現在は「アンドロイド喫茶」としてオープンしているらしい。そのあまりにも奇をてらった発想に絶句していると、奥から明らかに習い立てのロボットダンスをしながら、カクカク動くドラえもんみたいな体型の女が近づいてきた。ドラえもんは目の前までやってくると片言の日本語で言った。「ゴシュジンサマ、イラッシャイマセ、ナンメイサマデショウカ?」
どうやらアンドロイドを表現しているらしい。あまりの演技の酷さに笑いをこらえていると、てっちゃんが「プロトタイプ」というあだ名をつけたので勢い良く吹いた。
席に通され、憧れのツンデレ喫茶との落差にがっかりしていると奥からもう1人のアンドロイドがでてきた。その子がとても可愛い。肌が白く、ほっそりしていてさっきのプロトタイプとは比べにもならない。
「ナニニナサイマスカ?ゴシュジンサマ」
見たことないけどアンドロイドっぽい。注文したアイスコーヒをカクカクとまるでロボットの様な動きでグラスに流し込む、彼女は完全にアンドロイドになりきっていた。私達2人は彼女に興味を持ち色々と質問を投げかけた。
質問を繰り返してわかったことを要約すると、彼女の名前は「PCTD3008-7156-21」、彼女達アンドロイドは今から1000年後の世界からタイムマシーンにのってやってきたという。1000年後の地球は活気の無い暗い世界になっていて、そんな世界になったきっかけが「今」だとのこと、現代で手を打つのが未来を救う唯一の方法だと考えた未来人は、現代人を癒すために世界中の科学者を集めアンドロイドを作って日本に送り込み未来の復興を夢みているという、どっかで聞いたことあるような一大スペクタクルだった。仮にその話が本当ならば人類は滅んだ方が絶対に良いと思う。

彼女のアンドロイドの設定ぶりは完璧だったが私達二人は無機質で味気ない回答に飽きて、だんだんと彼女の本性を知りたくなっていった。私たちは5分刻みに「あれ名前なんだったっけ?」「あれ?燃料はレギュラーだっけ?ハイオクだっけ?」と、何度も揺さぶりをかけるが彼女はボロがでることもなく、何度も何度も丁寧に回答し続けた。そこから飽きもせずてっちゃんと私はあら探しの様な質問を投げかけ続けた。そんなやりとりが2時間近く続くと、彼女もさすがに疲れの色を隠しきれず、コーヒーを入れる仕草も完全に人間のそれになっていた。その素の状態を見つけるとてっちゃんは大喜びで「あれ?カクカクは!?カクカクー!」と言って狂ったように笑ってた。
そこからしばらくして、PCTD3008-7156-21は充電しにいく時間になったから未来に帰ると言いだしたので、またしてもてっちゃんが「タイムカード押すんやータイムカード押してからチャリのって帰るんやー」と言ってウヒャウヒャ笑っていると、終始無表情を貫いていたPCTD3008-7156-21は怒りの形相に変わり周りのお客さんに聞こえないように確認してから、ドスの聞いた声で
「ゴルァなんばしよっと?たいがいしとかなぁ、ぼてくりこかっすぞ」
と、博多の女の本性を曝け出してきたので、転がるように店から逃げた。

 

帰宅後、エドウィンからは不採用通知が届き愕然としていると携帯が鳴った。  

 

てっちゃんからのメールだ

 

「受かった✌️来年から一緒にがんばろなー‼️」

 

部屋にあったエドウィンのデニムは全部捨てた。